スペシャルインタビューの第3弾は、企業の組織改革から教育を行う有限会社GMJコンサルティングサービスの小野裕子さん。顧客視点を極めるプロセスについて3ヶ月にわたりインタビューを掲載します。
第2話
4Pから4Cへ
- 岩本
USPをつくるために、まず顧客視点が大事だということですが、どういうプロセスを踏んでいくのですか?
- 小野
顧客視点は4Cと言われるフレームワークを使います。これは御社のウェブサイトにも解説が載っていますが、4Pから4Cになっていく。その4Cという考え方を使っているのが顧客視点のベースになります。
- 岩本
まずそれを使われる。
- 小野
そこで大事なのが、人間の思考は一つのことしか考えられない。同時並行で考えられない。ですから、売り手の視点で考えている間は顧客視点に立てません。
そこで顧客視点に立つために、88個の質問に答えることで、自分が顧客視点に立とう立とうとしなくても、自然に顧客視点に立った情報収集ができるというツールをつくりました。
最初、4つのCの軸に合わせた、1つのCに22個ずつありますが、全部で88個の質問に答えることによって、自分たちが顧客視点に立った時にどんな情報を持っているのか。
この情報を収集するという段階がスタートです。
- 岩本
4Cに22個ずつの質問ということですが、ワークショップとか研修をやられていて、この質問は効果的だなというのがありますか。
- 小野
実は顧客視点を使ってできることはたくさんありますが、うちでは大きく三つと言っています。
一つは顧客視点を思考習慣としてトレーニングしていく。
二つは業務改善です。現状を分析するためにこの質問を使いますというやり方。
それと、先ほどから申し上げている、USPを抽出しますという純粋な使い方。
方法としては大きくこの3つがありますが、その3つの方法それぞれによって効果的な質問は違います。
- 岩本
違ってくるのですか?
- 小野
これが88の質問です。
皆さんが悩みがちな質問としては、お客様とのコミュニケーションというところで、「顧客があなたを信頼できると思う根拠は何ですか?」という質問があります。
売り物についてのサービスとか商品の知識はあったとしても、お客様はなぜ最終的に信頼して買ってくださったのかということを知らないことが多いですね。
ですから、ここで悩まれたりもします。あるいは、お客様が自分のところの商品を買う前に、問題を抱えているから、その解決策として求めるわけです。
その抱えている問題とはいったい何かという質問だったり、それによって、そもそもの顧客像をちゃんととらえられているかということを考え直す質問だったり。
- 岩本
そこで気づきがあるわけですね。
- 小野
競合に比べてよくない点、優れている点があると思いますが、例えば「優れている点をもっと極端にするとどうなりますか?」という質問をすることによって、いままで硬直しがちな思考を転換するというような質問もあります。
- 岩本
これ以上はセミナーに来てくださいという話ですね。(笑)
- 小野
来てくださると88個、手に入りますので。
- 岩本
まず88個をやって、その次は何をやるのですか。
- 小野
この88個で何をしているかというと、情報の収集です。
学校教育の弊害で、正しく答えられないことにすごく惨めな思いをする方がいらっしゃいますが、答えられないものは答えられなくていいのです。
答えられる状況でないことが自分の情報としてわかればいい。
それだけのことです。
答えられないことは答えられないでいい。答えられるものにどんどん答えていくということをお願いしています。そういうふうにして自分の情報を収集してきました。
収集の次に来るのは分析です。
集めてきた情報を分析します。この分析とはお客様との4Cのタイミング、価値にあたっているのか、コミュニケーションにあたっているのか、両方にあたっているのか。
自分が集めてきた情報をもう1度、逆視点のフレームワークに合わせて分析、分類するという段階があります。
- 岩本
分類をします。分類したあとは?
- 小野
分類したあと、今度はキーワードを抽出するという段階が来ます。
自分の情報を収集してきました。どこで起こっているのかを分類しました。それぞれ4Cのカテゴリーの中で、何回も出てきたりとか、自分が気になる、どうしても外せないキーワードを抽出しましょうというキーワード抽出という段階が次に来ます。
ここまではどちらかというと左脳系の作業です。左脳系の作業が終わって、その次の段階の作業としていきなり右脳系にシフトします。
うちのオリジナルツールのUSPマトリックスというのがあります。そのマトリックスに抽出してきたキーワードを仕掛けて、発想転換していこうというフェーズに入っていきます。
- 岩本
情報収集して、分析して、抽出して、発想転換。
- 小野
この「転換しました」というところで、USP、お客様に何を約束しているかという材料がそろいましたという段階になります。お料理だったら、何を用意すればいいか。ニンジンなのか、ジャガイモなのか。そういう材料がそろいましたという段階です。それに対して何が必要かというと、伝えるのは自分自身なので、パーソナリティー分析をちゃんとしておきましょう。
お料理の味付けみたいなもの、スパイス的な役割のものを次の段階でやります。パーソナリティー分析の結果、自分はいったいどんな強みを持っているのか、弱みを持っているのか。それと、発想転換してつくり上げてきたキーワードを合わせて、それで30秒のメッセージを作るとしたらどんなメッセージを作りますかという段階に入っていきます。
これには七つの要素があって、その七つの要素を30秒の構成要素として出します。その構成要素と、いままで自分が出してきたキーワードをくちゃくちゃとまとめ上げていくのが、山でいうと9合目です。
- 岩本
9合目。どんどん登っているわけですね。
- 小野
そう、9合目まで来ましたという段階です。
左脳的な作業が5合目までで、それ以降、右脳的に入って、9合目まで来ました。ここで30秒で語れる、自分とはいったい何か、お客様にどんなものを約束しているのかということが含まれたメッセージングが固まるという段階に来ます。セミナーでは実際にそれを30秒で言い合います。
- 岩本
それはグループか何かでということですか?
- 小野
最初は1対1で3人とか5人とか、参加メンバーの人数によりますが、繰り返し発表していただきます。そうすると、書き言葉と伝える言葉が違うということに気づきます。それでまた書き直して、書き直したものでグループ発表します。発表者に対してほかの参加メンバーが、ここが印象に残ったとか、ここが響いたとか、このキーワードがよくわからなかったとか、フィードバックしてもらいます。なぜならば皆さん、見込み客になりえる人たちなので、顧客視点から返してもらうという仕掛けをセミナーではつくっているわけです。
それでブラッシュアップしたものを持ち帰っていただきます。
- 岩本
それまで自分の中で右脳、左脳を使ってずっと作業をやっていく。
そして、9合目ぐらいでそれをアウトプットして第三者に確認するような感じですか?
- 小野
そうです。それで一気に登頂まで行きます。
- 岩本
1合目から登頂までで、右脳系の人と左脳系の人で苦しむところはあると思いますが、登るのに難しいところはどのへんですか。
- 小野
出だし。
- 岩本
最初の質問ですか。初めが一番厳しい。
- 小野
そうです。最初の22問は、質問に答えるという思考パターンがまだ刺激を受けてない状態なので、みんな出だしは苦しむけれど、だんだん作業自体に慣れてきて、後半は加速してガンガン、アウトプットできるようになっていきます。
- 岩本
見えてくるから楽しくもなってくるでしょうし。
- 小野
苦しいし、楽しいし。正しさを求めないプロセスですから。
正しいかどうかということが問題なのではなくて、自分にとって、自分の組織にとって妥当かどうかであったり、それが美しいと感じるかどうかということのほうが重要なポイントなので。
- 岩本
それが進め方の一つのこつみたいなものですか。
- 小野
そうです。世の中に100パーセント正しいものはないので、それを求めてしまうと苦しくなります。
- 岩本
テキストを作る段階では冒頭の、もちろんUSPをつくるためというのもそうでしょうし、そもそも業務改善、顧客視点になっていこうという目的があったと思いますが、最初からその三つというか、いくつかの目的を考えてこのセミナーはやられたのですか。
- 小野
テキストを作る段階ではUSPを導き出すというものでした。顧客の価値、顧客とのコミュニケーション、顧客の利便性、顧客にとってのコストの見直しというのは、業務改善にもあてられるし、こういうものの思考として持っている、社員でいようよとか、上司、部下でいようよというものにも使えるというふうに、汎用性としてはあとで気付きました。
- 岩本
今はどういう目的で来られる方が一番多いですか。
- 小野
セミナーのうたい文句がUSP抽出ですので、USPのプロセスを体験しに来られる方が多いですが、新規事業のUSPを探し出しに来ましたという方が質問に答えているうちに、これもやらなければいけなかった、あれもやらなければいけなかったというふうに、自分の新規事業立ち上げまでのToDoの計画ができましたと。
答えていくうちに同時にできてしまいましたとおっしゃる方もいます。だから副産物としていろいろなものを、皆さん、持ち帰っていきます。
- 岩本
USPの目的だけに絞って質問させていただきます。USPができた方々に対して、活用の仕方というので
- 小野
社長としてポイントとなるようなことがありますか。USP自体をどう活用するか。
- 小野
USPというのは、先ほども言ったように、行動して、それをお客様が体感できて初めてUSPがUSPとして成り立ちます。
例えば迅速に行動しますというUSPがあったとします。でも、その行動が迅速だとお客様に感じられなければ約束を破っていることになってしまいます。
お客様にとっての迅速とは何かということから始まって、メールだったら24時間以内に返信するというふうに行動規約に落とし込んでいく必要があります。その行動規約を一人ひとりの社員に、電話の受付業務の方から、営業マン、役員の方まで徹底しましょう。
そういうことができて初めてUSPを自分たちが実行できている状態というふうになります。
日本の書籍の弊害として、USPというのはつくればいいというふうに、USPをつくることが目的になってしまっています。
USPをつくるというのは自分たちのビジネスの行動の軸をどうするかという手段です。
つくることが目的ではなくて、実行することが目的です。実行に落とし込んでいくことが一番大事です。
- 岩本
まさにできたUSPに対して、社員やスタッフがどうコミットしたり、意識合わせをして進めていくか。これが活用としては一番大事なことになるわけですね。
- 小野
こういうUSPを掲げている。それに対して自分たちはどういう人間であればいいか。そのことを共通意識として持つ、認識として持つ、行動規範として持つことが大事だと思います。
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