スペシャルインタビューの第4弾は、「ある女性広告人の告白」の著書で、外資系広告代理店の副社長をご経験され、カンヌCMフェスティバルを初数々広告賞を受賞されたクリエイティブディレクター小池玲子氏のインタビューを3ヶ月にわたり掲載します。
第3話
人材採用はギブ・アンド・テイクで
- 岩本
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小池さんは今まで多くのクリエイターを育てていらっしゃると思います。クリエイターを育てる時に、小池さん自身のポリシーとかこだわりみたいなものはありますか。
- 小池
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まず会社員の頃ですが、面接の時に、私の部下になる人に、こういう事を言います。あなたは何年間いたら、どれぐらいまで伸びるのか、3年いたら、このレベルになるまで仕立てるよと。
- 岩本
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それを最初に言うのですか?
- 小池
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言いますね。べつに長期間会社にいて欲しいという気持ちではなくて、こちらが唯一言えることは、2年いたらこれだけのレベル、3年いたらこれだけのレベルまで力をつけるようにすると、約束できるんです。
- 岩本
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入社というか、自分のチームの人間になった時、最初にそういうことを言うわけですか?
- 小池
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はい。
- 岩本
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それは人によってもちろん違いますよね。
- 小池
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ええ。そうでない人は大変そうだから、辞めようとしますね。
- 岩本
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最初にわかるわけですね。
- 小池
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ええ、そうです。
- 岩本
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すごいですね。自分の部下になって1、2日目でそういう話をするわけではないですよね?
- 小池
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いえいえ、面接の時にしますよ。
- 岩本
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面接の時、ですか?
- 小池
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どういう将来を持っているのかを聞いてみます。そして将来が見えてくるような話をしますね。例えば、あなたの将来設計で、例えば28歳だったら、鉄は熱いうちに打てではないけど、20代でしか得られないものがあるから、2年間であなたがかなりのものを覚えれば次にジャンプできる。ここで一生働いてくれという気持ちは私もない。でも、ここにいる間にしっかりしたものをつかめると約束はできる。いまキャリアアップして転職するなら35歳ぐらいまでだから、そこからはかなりしっかりしたものを持っていないといけない。そのためにはまず人生設計を考える。ここの会社ではこれだけのことを、ある程度のことを教えられるから、それが必要ならば入ってくれればいいと思うし、そうでなかったら……。
- 岩本
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それを採用面接の時に言うのですか? ヒアリングというか、 夢や目標を聞くのですか
- 小池
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そうですよ。今後どうしていきたいのか。この会社にいてどうなのか。そう質問すると、勉強したいとか何とか、とにかく一生懸命やりたいと言いますよね。
でも将来をどう考えているのか。まず将来のこと、自分の人生をどう考えているのか。みんな「勉強します。頑張ります」と言いますが、いや、それは「何のために頑張るのか」ともっと聞きますね。
- 岩本
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抽象的ですものね。
- 小池
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いい広告をつくりたいとか、そういうことをしたかったら、この会社ではこういうことを、考え方とか論理的なことを教えられる。
テクニックも教えられる。化粧品のこういう表現も教えられる。それらについては、あなたはここに何年かいなければ教わることができない。でも、そのあとはそれを基本にして違う会社に行くなり、ステップアップするのも自由だよという話をします。
- 岩本
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成長の目安みたいなものを教えてあげるわけですね。
- 小池
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そうですね。人生の中で何年か過ごすわけだから、この会社はあなたにこういうことが提供できるよという話をします。
- 岩本
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その話、ものすごく参考になります。
- 小池
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そういうのがわかる子はわかる顔をするし、わからない子はわからない顔をしているから、そういう人は採らないですね。
- 岩本
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将来どうしたいのと聞くと、人によっていろいろなことを言うと思います。それに合わせて落とし込みをするわけですね。
- 小池
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時には、だめだなと思ったりしますよ。そういうのが全くわからない子とかは、ただ、ただ、就職したいんだなと思うし。
- 岩本
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そういうことも考えないで、生活のためだけなんだなとか、いろいろなことがわかりますものね。
- 小池
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そうそう。先日一緒にクライアントに同行させてもらった彼。
- 岩本
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石塚ですか
- 小池
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そうそう。御社の石塚さん。フット・コーン・ベルディングに勤めていた頃、すごく似た人を面接したことがあります。すごく似ていて笑っちゃうんです。彼の方がちょっと顔が長いかな。(笑)その子はよれよれの感じで来たの。小さな会社を辞めてきたらしいの。作品として持ってきたものがエッチなビデオのカバーだけ。これしかやってないんですって。
- 岩本
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ああ、正直に言ったわけですね。
- 小池
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そうなんです。涙が出るほどかわいそうな仕事なの。どうしたいのと話をして、採ることにしました。
彼の話によると、自分はたまたま就職難で前の会社に入ったけれど、ここの会社では、こういうことをやりたい、ああいうことをやりたいという話をしたわけです。最後に、きついけど、いいかと言うと、頑張るという話でした。自分の今の環境とか、これからどうやっていったらいいのかとか、彼のハングリーさがわかりましたよ。
- 岩本
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わかりますよね。
- 小池
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ハングリーでないと全然だめですから、そのへんを調べるためにそういう話をしましたね。
- 岩本
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これはクリエイターだけではなくて、すべてにおいて言えますね。
- 小池
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彼を採った時は、髪はもしゃもしゃで、体力が無さそうな感じがしました。でも、入社の初日、彼が今日から来るということを忘れていて、変なのが座っていると思ったら、髪の毛を切ったその子が座っていたの。
- 岩本
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すっきりしていたのですね。(笑)
- 小池
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そうそう。
- 岩本
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全然わからなかったのですか
- 小池
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わからなかったんですよ。その子が言うには、私が面接の帰り際に「ところでお国はどこなの」と聞いたとか。
お国というのは東北とかそういう意味で聞いたのですが、彼としてはマレーシア人のような外人に間違われたと思い、すごく傷ついたとか。(笑)
- 岩本
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それで、日本ですと言ったのですか (笑)
- 小池
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それが違うんですよ、東京ですって…。(笑) 私はそうやって面接時に質問をしながら、人をずっと採っています。
- 岩本
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勉強になりました。
クリエイティブブリーフをからめながら小池さんの人となりとか、いままでご苦労されたことについてうかがいましたが、採用する時のお話なども、すごく勉強になりました。
- 小池
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採用するのも、採用されるのも、立場は同じです。会社側は何かを期待して給料を出すし、採用される側も会社に何かを期待している。
- 岩本
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まさにそうですね。
- 小池
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お返ししてくれるのということですから、互いにギブ・アンド・テイクなわけです。
あなたの人生の何年間をここで過ごすつもりだったら、どういうつもりで来るのか。何を知りたいのか。ここから何を取りたいのか。こちらがあげるものはこういうものだよと。
- 岩本
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それが昔の日本だと、お金のため、生活のためになってしまうんでしょうね。だけど、うちの会社に来たら、こういう成長を提供できるよとはっきり言えるところがすごいと思います。
- 小池
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それと、今の子は人生設計がしっかりしてないとだめだと思います。
- 岩本
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本当にそうです。
- 小池
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あなた、この会社を受けて、自分の人生に何をプラスにするために来るのかと聞いた時に、うーん、よくわからないなんて言ってしまうと、だめですね。
何でもいいからいい仕事をしたいからとか、もうちょっと上のレベルに上がりたいとか、素直に言う人はいいと思います。
- 岩本
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判断もできるということですね。
- 小池
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そうです。相手の考えていることがわかります。
- 岩本
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参考になりました。ありがとうございました。
※このインタビューは、2008年8月に実施しています。
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